石川義正著『存在論的中絶』、すごい本だった。ロー対ウェイド判決が覆される時代に、優生的な選別を絶対に拒否しながら、人工妊娠中絶を擁護する理念をどこに見いだすか。自身や友人の切実な生の事実をもとに、哲学、小説、進化論の展開などを膨大に引用・解釈しながら、中絶の存在論が展開される。前著から続く「崇高」のテーマがこんな風に展開されるとは。石川さんの本を読む度、自分が見聞きし、体験してきたものと同質のものを強く感じ、同世代にこういう文芸評論家が存在していることを幸運に思う。月曜社刊。まじ必読の一冊。
この本の第6章、埴谷雄高『死霊』論の末尾近くに「現在、スターリンなきスターリン主義体制への批判をほとんど唯一担っているのはフェミニズムである」という文章がある。廣瀬純が『新空位時代の政治哲学』で紹介していた「脱家父長制なしに脱植民地主義はない」という言葉と響き合っていると思った。