早尾貴紀さんがいらした3月の松本本読みデモ参加前後に早尾さんの『パレスチナ/イスラエル論』(2020年有志舎刊)を読んでいた。この本は全3部構成で、このうち第Ⅰ部は思想編ということになっている。その中では、1948年のイスラエル国家建設以前から、パレスチナ/イスラエル問題の歴史の中で、度々浮上してきたという「バイナショナリズム」=二民族一国家論の展開が紹介されていて興味深かった。
1993年のオスロ合意で、パレスチナに独立国家を与えて和平問題の解決を図ることが国際的な共通認識になる一方、実際には、それ以降もヨルダン川西岸とガザ地区への侵食が続き、パレスチナ占領地への軍事侵攻が苛烈を極めていく中、誰の目にもパレスチナの独立が不可能であることが明白になっていくことで、近年のバイナショナリズム論の再評価が始まったという。
今目の前で、イスラエルによるパレスチナの人々の虐殺と飢餓攻撃が続き、犠牲者が恐ろしい勢いで増え続けている中で、一国家解決を唱えることが現実的であるとはなかなか考えづらいが、バイナショナリズム論の展開の中で、一国家解決から無国家解決というラディカルな主権国家批判が生まれてきているというのだから驚かざるを得なかった。
『パレスチナ/イスラエル論』の思想編でもう一つ、改めて認識できるのは、パレスチナ問題におけるジャン・ジュネの存在の大きさだった。昔、自分が田んぼの中に建つ田舎の高校に通っていた当時、自分が足を踏み入れるどんな本屋にも、例えば教科書や参考書などを置いている高校近くの小さな本屋にさえ、新潮文庫のコーナーには、ジュネの『泥棒日記』や『花のノートルダム』サルトルの『聖ジュネ』などが必ず置かれていた。恥ずかしながら自分は、何度もそれらの本を手に取ったりしつつ、一度も買って読んだことはない。今になって、パレスチナの惨状を伝えるニュースを見ながら、早尾さんの本を読み、その解決を考えるヒントとして、ジュネの文章やそれを読み解く梅木達郎や鵜飼哲といったジュネの研究者であり、デリダの研究者でもある人達の文章が引用されていたりるのを読むと、本当に遅まきながらジュネも読んでみようかなあと言う気になった。それにしてもどうしてジュネの研究者はデリダの研究にも深く入って行くのかなどと思ったりする。いずれにしても、早尾貴紀『パレスチナ/イスラエル論』は、今ぜひ読まれるべき本だと思う。